賃貸にも無垢材はアリなんです!福岡の賃貸業界で20年間無垢フローリングを使ってきたスペースR デザインの無垢フローリングのリアル評

山王マンションのチャームポイント的な部分

毎月更新しておりますピックアップコラムシリーズ、今回は福岡を中心に不動産再生企画・マーケティング・設計デザイン・リノベーション・不動産仲介・不動産管理を行いご活躍されている株式会社スペースRデザインさまより賃貸物件を管理する上での無垢フローリングといったテーマにて寄稿頂きました。

これまで無垢フローリングにまつわるトピックをご紹介して参りましたが賃貸物件を管理されている立場からの居住空間やテナントの内装やに少し踏み込んだ内容となっております、建築に携わっている方でもお施主様でも中々聞かない現場評や設計を行う上での考え方等非常に参考になる内容となっておりますので是非ご一読いただければと思います。

この記事を書いた人

本田くん

本田悠人

1990年大牟田市生まれ。
熊本県立大学卒業後、ホームビルダーで戸建木造新築のコーディネーター・現場監理を担当。
まちとのつながりを大切に、空間からまちへとストーリーを広げることに魅力を感じている。この時代、このまち、この空間で暮らすことの価値を見出し、ここでしか生まれない空間の創出を目指す。

工事/リノベーション課・ディレクター・デザイナー

1.はじめに

2003年のリノベーションで無垢材を使った部屋

2003年のリノベーションで無垢材を使った部屋

2000年代初頭より福岡の地で経年賃貸不動産のリノベーションを行っている私たちは、無垢フローリングと日々向き合ってきました。これまで取り扱ってきた無垢フローリングの賃貸物件は100室以上あるなかで至った結論賃貸でも無垢フローリングは「アリ!」だということ。今回賃貸と無垢フローリングの関係性について改めて考えてみました。

実はCASオンラインさんのショールームとして入居していただいている「山王マンション」でも多くの無垢フローリング賃貸部屋があります。そして山王マンションは2003年の福岡賃貸リノベーション黎明期に無垢フローリングを採用したことで知られており、リノベーションの歴史的にも貴重な部屋が残っているんです。

2.福岡の賃貸市場について

※住居リノベの無垢フローリング事例

住居リノベの無垢フローリング事例

私たちが活動する福岡市は実は日本一リノベーションの認知度が高い街でもあります。
(※リクルート住まいカンパニー「2012年/2016年住まい購入検討者意向調査」より)

その要因の中に私たちを含む賃貸リノベーション業界が2000年代初頭から動き出していることもあるのかもしれません。また、集合住宅率が全国的にも高い福岡にとって、古い建物を再生することはコミュニティの維持にも繋がります。

解体から新築の流れでは一旦リセットされるものが継続していくことで、「建物らしさ」「まちらしさ」などのアイデンティティが育っていくと考えます。福岡の賃貸市場はリノベーションの旋風が起き続けている市場と言えるのかもしれません。

オフィスリノベの無垢フローリング事例(gazさん)

オフィスリノベの無垢フローリング事例(gazさん)

また、福岡の賃貸を語る上ではオフィス市場にも目を向ける必要があります。福岡市は2014年、国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に選定され、それに付随して様々な創業支援を行政が行ってきました。そして若いクリエイティブな感覚をもった事業者数は増加の一途を辿っており、働く場所だけでなく働く空間や働き方そのものにもこだわりを持つ人種が現れています。

一方で天神や博多など中心部のオフィス区画は賃料が高く創業したばかりの若い事業者にとっては負担が大きい市場でもあります。そこで中心から多少離れていても自分の満足できるカッコいい空間であったり、リノベーションされたマンションの一室にオフィスを構える例も少なくありません。

賃貸の区画を提供する私たちにとって「住居」「オフィス」などの視点でマーケットを見ることはとても重要なのです。

3.賃貸なのに無垢フローリングを選ぶ理由

今でこそ賃貸で無垢材を使っているケースも出てきましたが、私たちがリノベーションを始めた2000年代初頭にはある種タブーのような感覚もありました。賃貸住宅には退去後の原状回復がつきものです。キズや水に強いとは言えない「無垢フローリング」を使うことは余計なコストがかかると考えられていたはずです。

ではなぜ私たちは無垢材を選んでいるのか。理由は大きく2つあります。

理由①

「市場にない!を提供できる」

築古物件を多く取り扱う私たちにとって市場での優位性を他の何かで作っていく必要があります。その1つとして無垢フローリングの存在感は非常に大きいと考えています。無垢フローリングというだけで「他にない部屋」となり、壁や天井の仕上げ、間取り、照明など考えられた他の要素と掛け合わせることで更に市場での存在感は増していきます。

何より賃貸物件なのに無垢フローリングの空間で暮らせるということ自体が入居者さんにっての大きな価値となっていることはこれまで幾度となく感じてきました。

理由②

「ビンテージビルとの相性が良い」

築古物件を再生している私たちは「良い経年=価値が高まる」と考えています。それはビジュアル的であったりストーリー的であったりと人によって見え方・感じ方は違うものかもしれません。

ですが、私たちが「ビンテージビルは良いものです」と言い続ける限り、その定義に共感してくれる方が集ってくれると考えています。また、その想いに共感してくれる入居者さんにとっても無垢フローリングのちょっとした傷や焼けなどは「良い経年」として目にうつると考えているのです。

このようにコストや取り扱いなどのマイナス要素以上の価値を見出すことができる無垢フローリングを私たちはこれからも使い続けていくはずです。独自性を求める方へ直接的にささる部屋であったり、私たちの表現の1つである入居者さんによるDIYでの可変性なども無垢フローリングとの相性が良いと考えているからです。

4.使ってみて実際はどうなの?

では使ってみた実際のところはどうなのでしょう。先ほど写真で見ていただいた2003年に無垢フローリングを使ったお部屋の今の状態はこちらです。

◆2003年の無垢フローリングリノベ部屋の現在の状態

2003年の無垢フローリングリノベ部屋の現在の状態

焼けて大きく色味が変わっていますが、その経年変化も雰囲気よく見えませんか?こちらはパイン材を使っており、無垢材の中では比較的やわらかく傷がつきやすいとされていますが、約20年経過しても全く張替が必要とは思いません。歴代の入居者さんが丁寧に使ってくれていることもありますが時間が経過したことでより馴染んできたという印象を受けました。

オイルなどできちんと手を入れて丁寧に使っていけばまだまだ深みを増していくように思います。丁寧に入居者さんが使ってくれていることが物語っていますが、「多少のデメリットはあっても、それ以上に良い雰囲気で空間のイメージを高めている」と感じて頂いているのだと思います。

ご入居時に無垢フローリングのキズをご指摘頂いたことは殆どありませんし、退去時に「無垢フローリングが気持ちよかったです」などのお声がけを頂くこともあるんです。また、無垢フローリングを採用する際には原状回復時にしっかりと状態を確認し、必要に応じてのオイル塗布などメンテナンスをする前提で考えているので、長い目で見ると賃貸経営的にも〇だったりもします。

5.何を使うかより、どう使うか

これまで無垢フローリングを「賃貸」の目線から書いてきました。無垢フローリングの表情の良さや経年していくことでの美しさなど私たちは常に感じていますが、前提として「無垢フローリングを使ったから入居が決まっている訳ではありません」。それに賃貸経営として時間やお金のバランスを考える中で、希少性のある無垢フローリングやハイグレードの無垢フローリングを使うことが正解でもありません。

私たちは「何を使うか」よりも「どう使うか」を大切にしています。建物の向かうべき良い未来があり、それに適合するお部屋を作ろうとする場合にコンセプトやターゲットを決めてプランニングしていきます。

優しい雰囲気の無垢フローリング事例

優しい雰囲気の無垢フローリング事例

ですが空間を表現するなかで「床」の要素はイメージの多くを占めています。特徴のある空間を作るうえで床の存在感は絶大であり、直接肌が触れるという観点からも私たちが大切にしている要素でもあります。例えば「やさしい雰囲気」も「強い雰囲気」も作ることが可能です。

◆強い雰囲気の無垢フローリング事例

強い雰囲気の無垢フローリング事例

そういった雰囲気や空気感を作るには無垢フローリングは大きな役割を果たしていると考えています。新築やパッケージでないリノベーションであるからこそ無垢フローリングとの親和性があり、空間によって様々な床材を使うことができると考えています。

無垢フローリングも近年多くの市民権を得て、ある種スタンダードになりつつあります。昔は流通していなかった樹種も使えるようになったり、加工の技術も幅が広がっています。無垢フローリングの表現力はこれからも高まり続けていくことでしょう。そのスピード感に遅れないよう日々の情報収集や実際に手にとれるルートを作り、リノベーションの表現力を高めていきたいと考えています。

6.スペースRデザインのフィールドや歴史

株式会社スペースRデザインは2008年、経年賃貸不動産オーナーのお困りごとに総合的に対応できる体制づくりを目指し、福岡のリノベーション賃貸のパイオニア「吉原住宅有限会社(1965年創業)」より独立した賃貸不動産のコンサル会社です。「ひとと不動産の明日を、共感で結ぶ」の企業理念を掲げ、経年不動産をブランディングし、企画とともにリノベーション、不動産管理・仲介、プロモーション、時にはDIYワークショップまでワンストップで行っています。

その中で大切にしているのは、不動産オーナーさんと入居者さんが満足できる最適なバランスです。その上で、その建物がまちを元気にし、なくてはならない存在になることを目指しており、その仕組みをデザインすることが当社の役割であり得意分野です。

「ビンテージビル思想」

想いを込めて作られた建物は、年月を経ても、造りや素材、デザインにキラリと光るところがたくさん!人のつながりが自然に生まれる工夫も盛り込まれていたりします。そこに、再生のためのコンセプトとデザインを付け足すことで、より魅力的な建物へと進化していきます。

このように、長い時間をかけて人の繋がりや歴史などを蓄積し、独自の文化を築いている建物のことを私たちは「ビンテージビル」とよんでいます。「ビンテージワイン」や「ビンテージジーンズ」など、食や衣の分野にある古さの中に価値を見出す「ビンテージ」の考え方を建物にも当てはめ、定義しています。
<>/p

2023年現在、築55年の山王マンションもビンテージビルとして築100年を目指しまだまだ頑張っています。

ページトップへ

   無垢フローリング床材専門店 キャスオンライン All rights reserved